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■エルンスト・クライドルフの世界■

子どものころ、先生の顔を見られないぐらい恥ずかしがり屋
だったというエルンスト・クライドルフ(1863年〜1956年)。
中学を終えてすぐ本当は画家になりたかったのですが、両親はけっして
裕福ではなく、石版印刷工房で石版師としての修業を始めます。
やがて学費を稼ぐと、ついにミュンヘンにひとり渡り、亜鉛印刷工房で働きながら念願の美術学校へ。
絵の勉強と学費稼ぎとで、早朝から夜遅くまで働きづめでした。
ところが、1885年、クライドルフがまだ20代のはじめ、一番下の弟を病気で亡くします。
1888年ごろからはクライドルフ自身、目からくる偏頭痛がひどくなり苦しみます。
さらに、89年には、最愛の姉が27歳で亡くなり、
「若くして死にたいとは思わないが、そんな考えが私の頭の中をしばしば回る。
姉の葬式以来、死が私につきまとう」と自叙伝に書き残しています。
追い討ちをかけるように、1893年2月に祖母、3月にもっとも健康だった弟が24歳で、
そして7月には母があいついで亡くなります。
クライドルフはみずからの療養もかねて南バイエルンのアルプスへ。
散歩に出かけては半日でも一日でも山の草原に腰をおろし、山を眺めたり、
木々や小鳥、草、雑草、花、虫を眺めるのが大きな喜びであり、慰めでした。
1894年、「花を摘んだことを後悔し、償いのために描いた絵
この絵が、絵本「花のメルヘン」誕生のきっかけとなる」といったスケッチも導入されています。

印刷技術や時代が変わっても、人の心はそう変わりません。
100年たっても変わらない美しさ、時を超えた美しさーー。時代を超えて受け継がれていく良さを再発見してみませんか。
「はじめに」から「あとがき」(初版本にのみ入っている絵柄のことなど)まで、
クライドルフ好きの人たちが心をこめて書いた文章、そして、イラスト、スケッチ、写真がたくさん。
大事なご友人へ、または、ご自身へのプレゼントにいかがでしょうか。

以下、「エルンスト・クライドルフの世界」より引用させていただきます。

「現在、私たちが目にする色彩豊かな絵本の基を作ったのは、19世紀後半から
20世紀初頭にかけて活躍した絵本作家たちの質の高い仕事だといっていいでしょう。
…絵本の黄金時代といわれる頃、イギリスで活躍したウォルター・クレーン(1845〜1915)、
ランドルフ・コルデコット(1846〜1886)、ケート・グリーナウェイ(1846〜1901)
の絵本を制作したのは、木口木版のすばらしい技術を持ったエドモンド・エヴァンズがいたからでしょう。
エヴァンズの高い技術と三人のすばらしい絵本作家との出会いがあったからこそ、
絵本の黄金時代のさきがけを作ったといっても過言ではないかもしれません。
当時、ヨーロッパ各地ではまさに多色刷り絵本の花盛りでした。
フランスのブーテ・ド・モンヴェル(1850〜1913)、ドイツのエドムント・フォン・フライホルト
(1876〜1944)、ロシアのイワン・ビリビン(1876〜1942)……今でもその生き生きとした美しい絵本に驚きます。
フランスには今も続く技術の高いリトグラフ工房があり、ロシアのビリビンの作品は
当時、最高の印刷技術を誇ったペテルスブルクの国立印刷所で印刷されたものでした。
こうした印刷の職人技が、画家の持つ力を充分に発揮させるのに大きく発揮させるのに
大きく貢献したことはたしかです。そしこの時期に、絵本の花が一斉に咲き誇ったのです。
その中で、エルンスト・クライドルフ(1863〜1956)に目を向けてみましょう。
彼は絵本のような憧れの国ーー美しく険しい山々、そこに咲くたくさんの花、
澄んだ高原の空気と風、大自然の中で自由に暮らす人々、精神的な豊かさと、文化、芸術の質の高さ
ーーこのような国において、まさに絵本の先駆者でした。
自然を心から愛したクライドルフは、スイスの美しい自然を舞台に、花や舞台を沢山スケッチした中から、
彼の心を通じて見い出した新しい姿に変え、独特のいのちある形で表現しました。
そしてその美しさを、そのままの形で石版師のマイスター、クライドルフが絵本に仕上げたのです」
(小さな絵本美術館 武井利喜「はじめに」より)

「絵本と印刷技術とはいわば運命共同体で、切っても切れぬ関係にあります。
絵本の作者や編集者には、印刷や製本に関する知識とクラフツマンシップが不可欠です。
その意味でクライドルフは絵本作家であるとともに編集者を兼ね、
印刷にも精通していて、その工程のすべてを手がけることのできた、
絵本つくりの理想的な芸術家でした」(松居直「時をこえた美しさ」 より)





cover図録 エルンスト・クライドルフの世界 ースイス絵本のよあけー
小さな絵本美術館 2002年
3990円 新刊

はじめにー武井利喜 時をこえた美しさー松居直
天才的な石版師、エルンスト・クライドルフーワルター・ロースリ
天才的マイスター クライドルフーさとうわきこ
エルンスト・クライドルフ「人生の思い出」−岡志乃婦(要約)
エルンスト・クライドルフと日本の木版画ーワルター・ロースリ
図版(32ページ〜83ページ)
エルンスト・クライドルフの略歴
エルンスト・クライドルフの絵本作品リスト
あとがきにかえてー武井利喜

カラー図版 掲載作品の一例
「花のメルヘン」(1898年)より
「フィッツェブッツェ」(1900年)より
「ねむれる木」(1901年)より
「くさはらのこびと」(1902年)より
「ブンチェック」(1904年)より
「昔の子どもの詩」(1905年)より
「ちょうちょ」(1908年)より
「庭の夢」(1911年)より
「ふゆのはなし」(1924年 1925年?)より
「庭の赤いバラ」ベルン市小学校三年生用国語読本(1925年)より
「春のつかい」(1926年)より
「バッタ」(1931年)より
詩画集「沈黙の庭」(1932年)より

「カード」より
絵本より「アルプスの花物語」(1922年)
「犬の祭り」(1928年)
「詩画集 花」(1920年)
「子どものころ」(1930年)
「こびとと妖精たちのところで」(1929年)
「子どものためのおしゃべり」(1903年)

完成作品ばかりでなく、それ以前の段階のスケッチもあります。
「スケッチブックより」には、絵本のモチーフとなったと思われる
風景、花、動物などのスケッチが掲載されています。

ハードカバー 92ページ。サイズ 天地 29.8センチ×左右 22.8センチ

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