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5月2日
「ロンサール詩集」
(ロンサール・詩 井上究一郎・訳 岩波文庫)
§ばら§
≪酒にばら そそがなん、
そそがなん、酒にばら。
つぎつぎに 飲みほさん。
飲むほどに、胸深き
悲しみは 消えゆかん。
美しき 春のばら、
この時を たのしめと、
若き日の 青春の、
花の間を たのしめと。
咲くと見し その日はや
色褪せて、散れるばら、
われらまた この齢
束の間に 衰えて、
人生の 春むなし。……≫
この「ロンサール詩集」を手に入れたときは、
あれにもこれにもお気に入りの付箋を貼り、
周りの人には、
「岩波文庫は、出たときに手に入れておかないとなくなるよ」
と連絡しまわったものでした。
バラの詩人と呼ばれた「ピエール・ド・ロンサール」にちなんで付けられた名前の
ピエール・ド・ロンサールというバラは、初々しいピンクで美しいバラです。
詩のイメージともぴったり、優しい香りがします。
当然のことながら、バラの品種は際限なく多く、
名前とバラのイメージの関わりを考えるのも楽しいものです。
生命力旺盛なつるバラ「スパニッシュ・ビューティ」は、香りといい、
スパニッシュドレスの裾のようなピンクの花びらのヒラヒラといい、
まさに、ビューティという感じです。
「ジャスト・ジョーイ」という気品あるオレンジのバラの栽培家は、その美しさから
「妻、ジョーイのようだ」
と名づけたとか……ふむふむ。
「アンジェラ」とか「マチルダ」なんていうバラの名前も、可愛い恋人から付けたのでしょうか。
どちらも可愛いピンク系のバラですからね。
かのチェリストのジャクリーヌ・デュプレの名を付けたバラは白く、
花芯が赤く色づいていて、魅力的で気品あるバラです。
デュプレは、若くして、多発性硬化症で亡くなった天才チェリストです。
何年か前、「ほんとうのジャクリーヌ・デュプレ」という、
デュプレ・ファンには、少々ショッキングな私生活が描かれた映画がありました。
その中で、流れていたエルガーのチェロ協奏曲。チェロの深い響き。天才の孤独。
私には、音楽の素養も指揮者や作曲家云々の知識もありません。
が、いつかご紹介した「ブリティッシュアート論」のエルガーの授業で、
デュプレのチェロ協奏曲ホ短調第一楽章の演奏を聞き、鳥肌がたったことを覚えています。
その後すぐに、このCDを手に入れ、今は、パソコンに取り込み、集中して文を書きたいときに聞いています。
↓スパニッシュ・ビューティ。
ちなみに、文中に出てくる「ジャスト・ジョーイ」の写真は、下記5月1日エッセイ文末をご参照ください。

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5月1日
「ラヴジョイの庭」
(ルーマ・ゴッデン作 茅野美ど里・訳 偕成社)
≪……特別! あたしは特別がどんなものか、わかった気でいたのに!
ラヴジョイはパンジーを美しいと思っていたのだが、
――そう思っているあいだも、ずっとこれがあったなんて。とラヴジョイは思った。
石のかけらでふちどられた花壇、マスタードとカラシナを蒔いた花壇が、
いまは子どものお遊びのように思えた。
自分ではわかっているつもりでいたのに、とラヴジョイは悲しかった。
すっかりわかっている気でいたのに、ずっとこういうものがあったなんて
――最後はどうしてもバラにいきついてしまう。……≫
けなげな主人公たちが、土を欲しがり、種蒔きをする、そして、精魂こめた庭仕事。
主人公たちに迫る厳しい現実とバラ。棘のあるバラ。
バラ……確かに、彼女は花の女王です。
この月並みで言い古された台詞を素直に捉えないときもありました。
が、それは、ラヴジョイのように、バラを知らなかったからです。
女王の資格は、香りや姿だけではありません。その物腰だと思います。
ともかく、もったいぶって咲きます。つぼみから咲くまでの長いこと長いこと。
安っぽい女じゃないのです。媚びたりしません。けれど、咲いた日の美しさと言ったら……。
一日前に咲いたものは、すでに、席をゆずり、今朝! 咲いた子が、燦然と在る。
イギリスのザ・ローズ・ガーデンは、通路以外、バラで溢れていました。
みな大振りの立派な咲き誇りよう。香りも素晴らしく、うっとり。
それでも、今朝咲いた子は、わかるのです。
たくさん咲けば咲くほど、今日の子の美しさが際立ちます。
乙女の初々しさ。ああ、遠い昔のこと……?
その後、我が家も、バラに手を出してはいますが、なかなかイギリスのようにはいきません。
虫やカビや病気との闘い。
"イギリスと日本じゃ湿度がぜんぜん違うから、虫も病気も多いんだい!"
と居直るものの、とてもご紹介できない残酷な方法で虫を仕留めたり、やっかいな病気などなど…。
それでも、こまめなお世話も楽しいものです。
手間ひまかかり、咲くまでじらされた分、より愛おしい。

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