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クリスマス絵本で世界めぐり

クリスマス絵本のお楽しみは、ごちそうだけではありません。
【2006年 クリスマスの本 アドベントエッセイ】参照)
行ったことのない国のクリスマスを、居ながらにして楽しむことができます。
オーストリア、スウェーデン、チェコ、メキシコ・・・・・・
これから、クリスマスまでの間、世界のクリスマスをご一緒に楽しんでみませんか?


文/カーネーション・リリー・リリー・ローズ

神戸出身、関西在住。
子どもの本と絵本とチョコレートとバラををこよなく愛する、
未公認無認可イギリスびいきの会の一員。


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12月25日

*German ドイツ

「くるみわり人形」
(E.T.ホフマン作 モーリス・センダック絵 ほるぷ出版)

「クルミわりとネズミの王さま」
(ホフマン作 上田真而子・訳 岩波少年文庫)


バレエで有名なこのお話は、お話の中のお話があったり、
夢と現実がないまぜになっていたりと、とてもファンタジックな世界です。
もともとは長いお話ですが、
大人が読んでやると、小学校低学年くらいからでも、楽しめると思います。
ただ、章の終わりの書き方が、お話の続きが聞きたくなるように出来ていますので、
ついついその次も、その次も読んでしまい、あっというまに読み終わってしまいます。

我が家では、センダックの「くるみわり人形」を楽しみました。
大きくて重いのが、難点ですが、絵の迫力と、衣装の美しさに、目を奪われます。
バレエ好きのセンダックが、その舞台美術を手がけたときのものを使っているようです。
初めの見開きには、月夜に浮かぶ静かな雪の庭。
舞台はここから始まるのでしょうか。
画面いっぱいに描かれたクリスマス・ツリー。
踊るネズミたちに、7つ頭のこわーいネズミ。
そして、最後の見開きには、一度見たら、忘れられない大迫力の「くるみわり人形」。
きれいな衣装や不思議なコスチュームをつけて踊るバレエダンサーたちも、みていてあきません。

「くるみわり人形」は、夢中になって読んでしまうスリリングなお話の展開です。
でも、子どもの心を捉えて離さないのは、やはり人形の国で登場する甘いもののオンパレードでしょう。
少々、ネバネバしています。

キャンデー野原。アーモンドと干しぶどうの門。
砂糖でできた回廊。キャンデーを大理石模様に流し込んだ敷石。
オレンジ川とレモネード川がそそいでいるのがアーモンドミルク湖(ん?)。
村の家の壁はうすぎりアーモンドとあめ漬けしたレモンの皮。
はちみつ川の岸辺にあるのが、しょうがパン町。
荷馬車の積荷は色紙とチョコレート。都にはマーマレードの森。
マコロンと果物の砂糖漬けでできた都の門。
都の家は砂糖のすかし彫りでできていて、広場の真ん中には、真っ白なケーキのオベリスク。
噴水が吹き上げるのは、オレンジエードやレモネード。
水盤にはカスタードが溢れ、お城はマジパン城。

閑話休題。
センダックは、この「くるみわり人形」と、
お菓子の家で有名な「ヘンゼルとグレーテル」の舞台美術を担当しています。
もしかして、センダックは、ネバネバの甘いもの好き?

さて、「くるみわり人形」の国には、魅惑的な「クリスマスの森」があります。
「クリスマス」というだけで、奇跡とまではいかなくとも、
何か非日常の愉しみがあるかもしれない、あるにちがいない、と思ってしまうのは、
単に「クリスマス」びいきだからでしょうか。

相手の喜ぶ顔を想像しながらプレゼントを選ぶ幸せ。
プレゼントを用意する優しい気持ちの往来。
子どもにとっては、誕生日もうれしいものですが、
町中が、何かお祝いモードに入っているクリスマスは、
大人も子どももわくわくするシーズンではありませんか。
少なくとも、もうすぐ新年を迎えようとしているんです。
こんなめでたいこと、他にあります?

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12月24日

*various countries いろんな国

“The Night Before Christmas”
(クレメント・ムーア)


サンタクロースって、どんなイメージでしょうか。
ほっぺやお鼻が赤らんで、おなかがゼリーのようにプルプル・・・・・・。
丸っこい体型の親しみやすいイメージは、はるか大昔からあったわけではありません。
N.Y.生まれのクレメント・ムーア(1779年〜1863年)が、
子どものために書いたこの“The Night Before Christmas”という詩が有名になり、
それがきっかけで、サンタクロースのイメージが定着したといわれています。

いろんな国の人たちが、この詩に絵を書きました。
今日は、ちょっとそれらを見比べたいと思います。

まず、イギリスのアーサー・ラッカムの描く“The Night Before Christmas”。
サンタクロースが、そりに乗ってやってくる街は、ロンドンでしょうか。
煙突が建て込んでいます。サンタクロースの服装は赤いとんがり帽に、
裏に毛皮のついた赤いコート赤いタイツに赤いとんがり靴。
足も細く、さほど太ってないので、ちょっと妖精の雰囲気の強いサンタさんです。

オーストリア生まれのリスベート・ツヴェルガーの描く「クリスマスのまえのばん」。
セントニコラウスは、三角のとんがり帽子ではありません。
今でも厳しい寒さの地方の人たちがよくかぶっている、円筒形の帽子を被っています。
赤いオーバーを着て、ズボンは、グレー。
家に入ると帽子を脱ぐ、とても礼儀正しいサンタさんです。

アメリカ合衆国のJ.W.スミスの描く「クリスマスのまえのばん」。
サンタクロースは、赤い服を着ていません。
毛皮のついた帽子、上着の襟や袖口にも毛皮が付いて、色はダークグレー。
靴は毛皮のブーツです。
この絵本では、時間の経過を、暖炉の上に置かれた時計で表しているのが、楽しいです。
さて、サンタさんの滞在時間は?

同じく、アメリカのタシャ・チューダーが描く「クリスマスのまえのばん」。
1975年版と改定1999年版がありますが、最初の版のサンタさんの可愛いこと。
毛皮の付いた赤い帽子には、白くて丸いボンボリがついています。
赤い上着のすそや袖口にも毛皮がつき、ズボンも赤い。
ブーツはちょっと北方の民族ブーツのよう。
サンタと浮かれて踊ったコーギ犬は、サンタの帽子を被ってリラックス。
この旧版の中で、たくさんのお玩具が描かれているページは、何度見ても楽しいものです。

では、ちょっと目を転じて・・・・・・。
サンタがくる頃、父さんと母さんがナイトキャップを被って眠っているシーンを描いている絵本もあります。
アニタ・ローベルの描く「クリスマス・イブのこと」では、
布団にもぐった二人が手をつないで眠っている微笑ましい絵。
ウィリアム・W・デンスロウの描く「クリスマスのまえのばん」のご夫婦は
シングルベッドを並べて、母さんは、父さんに背を向けて寝ています。
グランマ・モーゼスの「サンタクロースがやってきた」では、
子どもたちが眠るシーンしか見当たりませんが、
ご夫婦が、天蓋付きベッドで寝ているシーンを描いたのは、
上記のリスベート・ツヴェルガー、J.W.スミス、タシャ・チューダー、
Douglas Gorsline とHilary Knight です。

こんなふうにちょっと視点を変えて、
例えば、プレゼントのいろいろ、トナカイを御すサンタクロース、
お父さんの様子、等など、
いろんな”The Night Before Christmas”を見比べるのは、いかがです?

さて、最後に、声に出して読んでみて、特に楽しいのは、
トミー・デ・パオラの描く「あすはたのしいクリスマス」です。
各シーンと文章のバランスもよく、訳語はリズミカルで、楽しさも倍増です。是非!

*“The Night Before Christmas”
(アーサー・ラッカム絵 Weathervanebooks NY)
*「クリスマスのまえのばん」
(リスベート・ツヴェルガー絵 江國香織・訳 BL出版)
*「クリスマスのまえのばん」
(J.W.スミス絵 ごとうみやこ・訳 新世研)
*「クリスマスのまえのばん」
(タシャ・チューダー絵 中村妙子・訳 偕成社)
*「クリスマス・イブのこと」
(アニタ・ローベル絵 まついるりこ・訳 セーラー出版)
*「クリスマスのまえのばん」
(ウィリアム・W・デンスロウ絵 渡辺茂男・訳 福音館書店)
*「サンタクロースがやってきた」
(グランマ・モーゼス絵 倉橋由美子訳 JICC)
*“The Night Before Christmas”
(Douglas Gorsline絵 Random House Pictureback)
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*“The Night Before Christmas”
(Hilary Knight絵  Happer & Row)
*「あすはたのしいクリスマス」
(トミー・デ・パオラ絵 かなせきひさお・訳 ほるぷ出版)

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12月23日

*Japan 日本

「べんけいとおとみさん」
(石井桃子・作 山脇百合子・絵 福音館書店・85年)


クリスマス絵本で世界めぐりとはいえ、日本のものもいいでしょうか・・・。
そうですよね、今回は日本の絵本です。

「べんけいとおとみさん」は、
犬のべんけいと猫のおとみさん(おとみねえさん)、
かずちゃんという男の子とまりちゃんという女の子の住む家の一年の暮らしを描いた本です。
お正月を祝ったり、豆まきをしたり、七夕があったり、お月見をしたり、
運動会に参加したり、クリスマスにプレゼントを用意したり・・・・・・。

クリスマスが近づくと、べんけいとおとみさんの家では、
庭の隅っこに鉢ごと植えてあるクリスマス・ツリーを掘り出し、
子どもたちが飾り付けをします。
クリスマスの前の晩には、その木の下にいろんな贈り物の箱が並ぶというわけです。
毎年、猫のとみ子への贈り物は、かつおぶしで、
犬のべんけいのは、たくさんの肉の付いた骨と決まっていました。
そして、子どもたちもお父さんお母さんも、
クリスマスプレゼントをひそかに用意するのですが、
べんけいとおとみさんは、お互いにあげるものがなかなか見つかりません。
でも、プレゼント交換をするときには、ちゃーんと用意できたのです。
それは・・・・・・。

「べんけいとおとみさん」には、決して派手な展開もありませんし、刺激的な冒険もありません。
ただただ、ほのぼのとした日常が描かれているだけです。
が、うちの子どもたちは3人とも、この本が好きでした。
絵本から、いわゆる字の本に移行するような時期の子どもたちにとって、
自分の生活や経験と似たお話、少ない経験の彼らでも理解できるお話というのは、
親しみやすく、物語の世界に入っていきやすいのだと思います。
我が家の3人は、絵本をあれだけ楽しんだあと、
一人はむさぼるように昔話を食べて大きくなり、
一人は「ナルニアなんかわからへん!」と、ファンタジーの世界に入れず、
そしてもう一人は、いつまでも読んでもらうことを好んでいたのに、
いつのまにか、母親の読んでいない文学を紹介してくれるまでになりました。
そんな3人とも、「べんけいとおとみさん」が好きでした。
このお話の持つ、ゆったりとした温かな世界が、きっと居心地がよかったのだと思います。

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12月21日

*Norway ノルウェー

「森からのプレゼント」
(ヨー・テンフィヨール作 トール・モーリス絵 山内清子・訳 偕成社・92年)


♪♪♪月曜日は おせんたくと 大そうじ
火曜日は クルミとオレンジ 袋に入れて
水曜日は お肉をやいたり 酢づけにしたり
木曜日は ペパー・クッキーを つくりましょう
金曜日は クリスマス・ツリーを 買ってくる
土曜日は プレゼントを きれいにつつんで
日曜日は アドベントのろうそくをつけましょう
うちの中から外までも クリスマスの いい匂い
クリスマスイブを 待つばかり 待ち遠しいクリスマス♪♪♪

お父さんがクリスマスの準備の歌を、ギターを弾きながら歌うと、家じゅうの空気が和みます。
人よりちょっとのんびりしているシーベルト。
家族は、いつも歌うお父さん、本を読んでくれるお母さん、
しっかり者のお姉さんソール、可愛い妹のシーブの5人です。

「ロッタちゃんとクリスマス・ツリー」(12月5日の項 参照)でも、
クリスマスにツリーを買い損ねてしまい、みんな落ち込みましたが、
このシーベルトの家族も同じでした。
けれど、この家の子どもたちは、心を一つにして大きな紙にツリーを描いて飾ります。
そして、夜の森に行くと、お父さんからのサプライズが・・・・・・!

その後、クリスマス以外の話題へと続くのですが、
派手な冒険物語でも、魔法物語でもありません。
ほのぼのとした家族の日常を描いています。
ノルウェーに暮らすなら、起こりうるような話です。
互いに尊重しあってなんとも温かく、居心地のよさそうな家族の話なのです。

実を言いますと、ロッタちゃんのところや、シーベルトのところみたいに、
我が家も危うく、今年はクリスマス・ツリーのないクリスマスだったかもしれません。
我が家のクリスマス・ツリーを本物のモミに変えて2代目の木が、
元気ですくすく伸び、家に入りにくい状態にまでなっていました。
最近では見上げたてっぺんに、ガラスの星を飾っていました。
ところが、その2代目は、猛暑だったからか、鉢がもう小さすぎたのか、
根きり虫が強かったのか、ともかくも、可哀想な最期を迎えてしまいました。

我が家は、3人の子どもたちもみな成人し、本当は、モミの木を飾るまでもないはずなのです。
が、クリスマス好きな母親に合わせてくれる娘は、
新しいモミの木を買うのに付き合ってくれました。
今までの2本より、ずっと小さいけれど、形のいいモミの木を、買いました。
苦労して積み込んだ帰りの車の中は、モミの木のいい匂い!
家に帰ると、末っ娘は、
「ちくちくして痛いなぁ」
といいながら、飾るのを手伝ってくれました。

なんでもロビンソンという名前にしてくれとモミの木が言ったそうで、
娘は弟のように毎日、ツリーに接しています。
今までよりずっと小さいモミの木に、
「ロビンソン、ちいさっ!」
と声をかけています。

ロッタちゃんの家も、シーベルトの家も、我が家も3人の子ども(男一人、女二人)がいるところが共通。
そして、クリスマス・ツリーなしでは、クリスマスにならないのも共通なのです。

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12月19日

*France フランス

「ちいさな曲芸師バーナビー」
(フランスに伝わるお話 バーバラ・クーニー再話・絵 末盛千枝子・訳 すえもりブックス 2006年)


この絵本のカバーをはずすことが出来るなら、一度、カバーをはずしてみてください。
赤い布張りの表紙中央には、輪郭を青く型押しされたバーナビーの晴れ姿が。
いまどきの絵本で、こんなに丁寧な装丁は少なく、
この出版社が、この絵本にどれだけ愛情を注いだのか、わかります。

このお話は、フランスの13世紀の写本に、
曲芸をする少年と聖母マリアと幼子イエスの絵が描かれている有名な言い伝えを、クーニーが絵本にしました。
修道院に暮らす曲芸師の少年バーナビーは、
クリスマスの晩に他の修道士たちのように、聖母子像に贈るものがありません。
そこで、バーナビーは、聖母子像の前で最高の曲芸を披露。
曲芸を終え、疲れきって気絶したバーナビーに聖母や天使が、
ハンカチであおぎ、風を送り、キスをするのです。

トミー・デ・パオラの「神の道化師」(*1)も、同じテーマですが、最後が哀しい。
老いた道化師が、聖母子像の前で力尽きて死んでしまうのです。
が、最後の幼子の微笑みは、特に、印象的でとても可愛らしいものです。
また、この言い伝えは、これまで、いろんな作家によって再話され、劇化されたりしたようです。
アナトール・フランスによって小説化された「聖母と軽業師」(*2)では、
バナルベという軽業師の額に流れる汗を聖母が青いマントの裾でぬぐうという最後になっています。
このように様々なバージョンがあるものの、テーマは一つです。
贈り物は、何を贈るかではなく、贈り物をする心を贈るのが重要なことなのだと。

ところで、クリスマスの頃、「Little Drummer Boy」という歌を、耳にされたことがおありだと思います。
♪ラ・パ・パン・パン♪の繰り返しのある、あの曲です。
貧しい僕は、お生まれになった幼子に何も捧げるものはないけれど、
持っているドラムを叩いて、その演奏を贈り物にします。
そしたら、お生まれになった幼子が微笑んでくれました。

♪ラ・パ・パン・パン♪
たくさんの人たちが、この歌を歌っていると思いますが、
フランスに伝わってきた話と、テーマは同じです。
私は、この「Little Drummer Boy」という歌を、
まだ子どもの頃のマイケル・ジャクソンが、
伸びやかに軽やかに、楽しそうに歌っている曲が好きです。
まさに、天から授かった素晴らしい歌声。お祝いにふさわしい晴れやかさを感じます。

*1「神の道化師」
(トミー・デ・パオラ ゆあさふみえ・訳 ほるぷ出版)

*2「聖母と軽業師−アナトール・フランス短編集」
(アナトール・フランス文 大井征・訳 岩波文庫)



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12月17日

*Denmark デンマーク

「もみの木」
(H.C.アンデルセン N.E.バーカート 中村妙子・訳 新教出版社・84年)


デンマークといえば、アンデルセン、ですね。
アンデルセンは、クリスマスごとに、その童話集を出し、当時のデンマークの人たちはクリスマスを心待ちにしていたようです。
イギリスでも、チャールズ・ディケンズ【イギリス、ほんの寄り道 A to Z】(2007年8月4日、Dの項参照)が、
毎年、「クリスマス・キャロル」のほか、クリスマスのお話を発表していました。
この二人は同時代の人で、交流があったようです。

アンデルセンの数あるお話の中でも、クリスマスのお話としては「もみの木」や「マッチ売りの少女」が浮かびます。
が、「もみの木」は、クリスマスの後、裏庭で、
「おしまい、おしまいだ」とつぶやきながら、たきぎになって、最後に燃やされてしまう話だし、
「マッチ売りの少女」は、クリスマスの朝に死んでしまう話。
うーん、ハッピーエンドじゃない!
この世での幸せを願う私のようなものには、素直に受け留められないというのが本当のところです。

確かに、アンデルセンの話の多くは、描写が美しいし、しみじみと伝わってきます。
実際、小さい頃に読んだお話なのに、未だに覚えている印象的なストーリーの流れは、
彼の作品の構成がよく出来ていて、こども心に訴えたからだと思います。

だとしても! 個人的には、子どもの話は、うそみたいなハッピーエンド、
もしくは、「あるある、そんな小さな幸せ!」・・・・・・みたいな話がいいなぁ。
わかりやすい"ああ、よかった"と、思える話が私の好みです。
明日を信じる、人を信じる心を、子どもの本に見出すのが好きなのです。

とはいえ、アンデルセンの目に見えるような描写のお話が
世界中の画家を魅了してやまないのは、いうまでもありません。
スベン・オットー、リスベート・ツヴェルガー、バーナデット・ワッツ、
N.E.バーカート、フレッド・マルチェリーノ、マーシャ・ブラウン、
バージニア・リー・バートン、日本だと初山滋、いわさきちひろ、堀内誠一をはじめ、
たくさんの画家たちが挿絵をつけています。

アンデルセン・クラシック「9つの物語」という挿絵本には、
アーサー・ラッカムやエドモンド・デュラック他、
少々前の時代の画家たち18人の挿絵を見ることができます。
それから、アメリカのセンダックが挿絵を描いた「7つのアンデルセン物語」にも、
「もみの木」の話が入っています。

「アンデルセン・クラシック 9つの物語」
(山本史郎・訳 原書房)

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”Seven Tales by H.C.Andersen"(「7つのアンデルセン物語」)
(モーリス・センダック・絵 Eva Le Gallienne・英語訳)
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12月15日

*Mexico メキシコ

「クリスマスまであと九日――セシのポサダの日」
(アウロラ・ラバスティダ゙文 田辺五十鈴・訳 マリー・ホール・エッツ絵 冨山房 74年)


15日なので、1日早いですが「クリスまであと 九日――セシのポサダの日」。
メキシコのクリスマスのお話です。
メキシコでは、クリスマス前の9日間、
毎晩違う場所で行う特別のパーティのことを“ポサダ”といいます。
ピニャタという粘土のつぼの中に入れた張子をつるし、
つぼの中には、お菓子をつめ、みんなでつぼを割って祝う風習があるようです。
このことは、2006年12月16日にも<食べ物>のテーマで書きました。
【2006年 クリスマスの本 アドベントエッセイ】12月16日分参照)

この絵本は、私がクリスマスの絵本に深入りするきっかけになった絵本でもあります。
それまで、メキシコのクリスマスのことを知らなかったし、
他の国のクリスマスもよく知りませんでした。
それが、この絵本をきっかけとして、
もっと、いろんな国のクリスマスのお話を楽しみたいと思ったのです。
もっとも、「クリスマスまであと九日」の可愛い主人公セシの魅力は、
クリスマス絵本という範疇を越え、人々を魅了し続けるはずですけれどね。

メキシコのクリスマスシーズンに雪は無縁です。
モミの木のような常緑樹に思いを馳せることもありません。
明るい日差しの中でイエスの誕生を祝い、
涼しい夜風の中で、みな集い祝うのですね。

ところで、最近、わが末っ子(21歳)に
「絵本に出てきた印象的なプレゼントはどれ?」という質問をしたら、こんな答えが返ってきました。
一つは、「ぴちぴちカイサとクリスマスのひみつ」(*1)にでてくる、
「赤と白のダンダラ模様のキャンデー」
(これはカイサが売っていたもので、プレゼントではありません)。
一つは、「クリスマスのうさぎさん」(*2)で、
クマがサンタクロースにもらう「大きなミツバチの巣」(この答えはかなり個性的です)。
そして、もう一つが、この「クリスマスまであと九日」に出てくる、お菓子の詰まった「ピニャタ」でした。
(どれも食べ物ばかり!)

ちなみに、グリム童話の「ヘンゼルとグレーテル」もお菓子の家ですし、
このピニャタもお菓子の詰まったつぼです。
ロアルド・ダールの「チョコレート工場」(*3)
「ゆかいなホーマー君」(*4)に出てくる「ドーナッツ工場」。
お菓子で満ち溢れるのは、子どもの永遠の夢なのだと思います。
甘いもの好きな私ですが、
おいしいお茶とおいしい甘いもの「少し」でいい私は、かなりの大人だと言えましょう。

*1「ぴちぴちカイサとクリスマスのひみつ」
(リンドグレーン作 ヴィークランド絵 山内清子・訳 偕成社)
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*2「クリスマスのうさぎさん」
(ウィルとニコラス 渡辺茂男・訳 福音館書店。復刊希望。お願いします!!!)
*3「チョコレート工場の秘密」
(ロアルド・ダール作 田村隆一・訳 ジョセフ・シンデルマン絵/柳瀬尚紀・訳 クウェンティ・ブレイク絵 評論社)
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*4「ゆかいなホーマーくん」
(ロバート・マックロスキー作 石井桃子・訳 岩波書店)

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12月13日

*Poland ポーランド

"Din Dan Don It's Christmas"
(Janina Domanska・作  London Hamish Hamilton)


<ぶちの模様のアヒルさん、バグパイプを吹きました。
バグバグバクと、吹きました。
七面鳥に がちょうさん、一緒に太鼓をたたきます。
ランタンタンとたたきます。
ラッパを吹くのはオンドリさん。
パップッカプーと吹きました。
ナイチンゲールは歌います。
ララララランと歌います。
黄金ヒワも合わせて歌う。
ララララランと声合わせ。
飼い葉おけを見守るは、屋根にとまってさえずるスズメ。
チュンチュクチュンとさえずるスズメ。
そうして、幼子イエスは、目覚めます>


ポーランド生まれの画家のこのきれいな絵本は、東欧の香りがします。
特にランタンタンと行進する人たちの東欧風の衣装など。
キリストの生誕を祝う絵本はたくさんありますが、
こんなにリズミカルな絵本も少ないと思います。
明るい色調の画面からは、お祝いにかけつける喜びの気持ちが溢れています。

ポーランドの絵本をあまり知りません。
が、迫害を逃れ、ポーランドを後にしたユダヤ人には、
ノーベル文学賞作家・シンガーをはじめとして、たくさんの人たちが居ます。
迫害は逃れたものの、着の身着のまま、あるいは文化や言葉の壁など、
新天地での生活が万事うまくいくと限らなかったのは、想像に難くありません。

そんな貧しい移民の中で、百枚のドレスを持っていた女の子がいました。
名前をワンダ・ペトロンスキーといいました。
毎日同じ、はげっちょけの青い服を着てくるワンダは、みんなによくからかわれました。
「あなた、戸だなの中に何枚ドレスをお持ちですの?」
いつもは、無口なワンダは答えます。
「百まい、ずらーっと並んでいる」
まもなく、デザインコンクールで一等賞をとったにも関わらず、ワンダは転校してしまいます。
そして、一等賞を取った絵は、他でもありません。色とりどりの百枚のドレスを着た女の子の絵でした。
クリスマス・パーティの日、転校して行ったワンダからみんなに手紙が届きます。

<「メーソン先生、おげんきですか?
13番教室のみなさんも、おげんきですか?
どうか、女の子たちには、あの百枚の絵は、みんなにあげるとお伝えください。
あたしの新しい家には、またべつなドレスが百枚、ちゃんと戸だなのなかにならべてあります。
ペギーには、赤いふちかざりのついた、みどりいろのドレスの絵をあげたいと思います。
ペギーの仲良しのマデラインには、青いのをあげます。
クリスマスのおくりものです。
あたしは、もとの学校のほうがすきでした。
こんどの先生は、メーソン先生ほどいい人じゃありません。
先生にも、みんなにも、楽しいクリスマスを。
ワンダ・ペトロンスキー」

先生は、ワンダの手紙をまわして、みんなに見せました。
絵入りの、きれいな手紙でした。 高いビルに囲まれた、夜の公園に、あかりのついたクリスマス・ツリーが立っているところがかいてありました>


cover 「百まいのドレス」
(エレーナ・エスティス作 石井桃子・訳 ルイス・スロボドキン絵 岩波書店・2006年)


 

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12月11日

*UK イギリス

"The Christmas Day Kitten"(クリスマスの子ねこ)
(James Herriot Ruth Brown St.Martin's Press)
「ドクター・ヘリオットの猫物語」(大熊栄・訳 レズリー・ホームズ絵 集英社文庫・2001年)
「ドクター・ヘリオットの犬物語」(大熊栄・訳 レズリー・ホームズ絵 集英社文庫・2001年)
「ドクター・ヘリオットの動物物語」(大熊栄・訳 レズリー・ホームズ絵 集英社文庫・2002年)


Dr.ヘリオットのエッセイは、うまい!
ユーモアたっぷりに、生き生きと描かれる獣医の生活。
「猫物語」「犬物語」「動物物語」をはじめ、
彼の著書を読むと、獣医という仕事を大いに楽しむ作者の姿が見えてきます。
彼の愛した動物たちと農家の人たち。よく見て書いてるなぁ、と感心します。

「猫物語」にしても「犬物語」にしても「動物物語」にしても、
文の主人公は、猫でも犬でも、馬でも牛でもありません。
その動物たちと暮らす人間たちが、文の中心です。人間って素晴らしい。
電車で、これらの文庫を読んでいると、ちょっと恥ずかしいときが・・・・・・。
というのは、声を出して笑いそうになったり、涙が出てきたり・・・・・・。
うーん、Dr.ヘリオットの書く話は、人情話そのものです。
そして、読んだ後は、清清しい気分になって、
"そうよねぇ、生きるって素敵。 明日もがんばろう!"
という気持ちがわいてくるのです。 

Dr.ヘリオットシリーズの舞台は、
イギリスにある架空の田舎ダロウビー(実際には、ヨークシャ州のサースク)です。
この田舎の光景が、Dr.ヘリオットを励ましたり、癒したりします。
が、クリスマスの朝に急患の連絡の入ったときばかりは、違うようで。
「・・・・・・商店に囲まれた広場を車で走り抜けながら、
クリスマスの日のダロウビーはディケンズの世界が甦ったようだと改めて感じた。
だれもいない広場の敷石に分厚く雪が積もり、
家並みの屋根のフレット模様(方形の帯状模様)のついた庇からは、つららが下がっていた。
店は閉まり、ひしめく家々の窓にきらめくクリスマスツリーは暖かく手招きしているかのようで、
町の背後に控える冷たく白い巨大な丘陵地へ向かう気力を鈍らせた。・・・・・・」

と、なだらかな丘陵が、立ちはだかるかのようです。

さらに、田舎の一般家庭におけるクリスマスの情景描写へと続きます。
「エインズワース夫人の家はピカピカ光るものや柊で華やかに飾り立てられ、
サイドボードにはずらりと飲み物が林立し、
キッチンからはセージとタマネギを詰めた七面鳥の豊かな香りがふんわりと漂っていた。・・・・・・」


目に見える静けさと、心を誘うおいしい匂い。
クリスマスに仕事という憂鬱さから尖っていた心を、
ふんわりと漂う香りが溶かしていくのです。

絵本にも、集英社版にも、静かな広場と巨大な丘陵地の絵があります。
いずれも、クリスマスの朝の静けさを感じさせる絵です。
(ただし、絵本は、子ども向けに文章を少々割愛しています)
また、「猫物語」「犬物語」「動物物語」ともに、
素敵な動物たちの絵と田舎の風景画がたくさん挿入され、
この本たちをより一層魅力的なものにしています。是非、ご一読を!

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12月9日

*Lapland ラップランド コルヴァトゥントゥリ

「ラップランドのサンタクロース図鑑―北欧コルヴァトゥントゥリからのおくりもの」
(ペッカ・ヴォリ作 迫村裕子・訳 文渓堂・2004年)


ラップランドは、スカンジナビア半島の北からロシア北西部コラ半島にかけて広がる地方です。
現代のラップランドのクリスマスの絵本といえば、
「ゆきとトナカイのうた」【2006年 クリスマスの本 アドベントエッセイ】12月6日分参照)があります。
それともう1冊、ラップランドの秘密の場所にあるサンタクロースの国、
コルヴァトゥントゥリの絵本も忘れてはいけません。
この図鑑は、トントゥ・ヴィルップ親方がサンタクロース1500歳のお誕生日に間に合うように作りました。
西暦2000年のことです。

この本は、美しい・・・・・・

・・・・・・で、終わったらいけませんね。
暖色の赤色を基調とした絵は、柔らかみのある描き方です。
だから、寒い国の話なのに、ちっとも冷たさを感じさせず、
ああ、こんな国に行ってみたいなと思うのです。
もし、あなたが「雪でできたコンサートホール」のページや、
「心をうばわれる空一面のオーロラ」のページ、「一年中で一番大切な夜」のページを見ないで、
クリスマスを迎えるなら、一生の不覚というものです(言いすぎ・・・・・・!?)。

この絵本は、その題名からもおわかりになるように、
「図鑑」ですから、いわゆるお話の本ではありませんが、
サンタクロースの暮らしぶりが、よくわかります。
サンタクロースは、ミセス・サンタと住み、
赤い帽子をかぶったトントゥたちが、サンタのお手伝いをしています。

中でも、一番心を惹かれるのは、サンタの暮らしの中にある数々の木工品や、工芸品。
大工のトントゥたちが作るのです。
クマの頭がついた松の木のひじかけの素敵なこと。横木に小鳥がとまっています。
シラカバの木を削ってつくった大きな魚のひしゃく。いいですねぇ。
トナカイやトントゥたちを形作ったチェスのこま! ラブリー!
サンタクロースの大きな時計の細工のすごいこと。
もちろん、プレゼントのおもちゃ作りにも、
その腕はいかんなく発揮されて、なかなか魅力的です。
特に、最後のページに描かれた手の込んだろうそくたてがおしゃれ!
そばに落ちている、ペンなど、私も欲しい!

そして、クリスマスが近づいてくるとサンタとトントゥたちは、
イブまでの仕事を確認します。ひげの手入れも怠りません。
プレゼントを入れる袋は、ミセス・サンタの手作りパッチワーク。
水筒は、トナカイの角のコルクつきで、ベリージュースが入り。
旅の杖は、モミの木の根っこを削って作ったもので、
百年以上使っているので表面がツルツルです。
コンパスは、黒い周りに骨をはめ込んだ細工のある素敵なもの、などなど・・・・・・。

サンタクロースの暮らしぶりを描いた絵本は他にもありますが、
この本は、"本当の"サンタクロースを描いた貴重な一冊だと思います。

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12月7日

*the Czech Republic チェコ


「およげ、ぼくのコイ」
(ヤン・プロハズカ作 フランス・ハーケン絵 吉原高志・訳 徳間書店・95年)


チェコでは、クリスマスのごちそうに「鯉」を食べる風習があるところから、
この「およげ、ぼくのコイ」も「おじいちゃんとのクリスマス」【2006年 クリスマスの本 アドベントエッセイ】12月12日分参照)も、
コイがお話の重要な部分を担っています。

<・・・・・・きれいな金魚がおよいでいる店のショーウィンドーの前には、
だれひとり立ちどまろうとしません。
ところが、コイがぎっしりと入った大きなおけのまわりには、
たくさんの人が集まっていました。
沼からとってきたばかりのまるまるふとった、クリスマスに食べるコイを、
みんなまるで人くい鬼みたいな飢えた目で見ています。・・・・・・>


人くい鬼みたいな大人たちの間で、男の子は、大きくて元気なコイを見つけ、買ってもらいます。
そして、お風呂に入れているコイと遊ぶうち、だいぶ弱ってきたのがわかり、
コイをもっと広い場所に連れて行くことを決心するのです。

<・・・・・・お風呂場の明かりを消すと、男の子はちゅういぶかく、
コイの入ったバケツを玄関のほうへ、ひきずっていきました。
まるでじぶんのいのちをそのバケツに入れてはこんでいるようでした。>


男の子は、どこにコイを運び込もうとするのでしょう?

ペットを飼ったり、ペットの死に直面したことのある人ーー子どもも大人もーーは、
きっと、「自分のいのちを運んでいるような男の子」の心情に共感することでしょう。
絵本「おじいちゃんとのクリスマス」のような、コイに関するはっきりした結末は書かれていません。
それは、絵本より、少々大きい人向きの本だからでしょうか。
でも、最後のユーモアや、お父さんやお母さんの言動から、このコイの行く末も想像できるのです。
多分・・・・・・。

プラハのクリスマス市の賑わいを絵で見てみたい人は、「おじいちゃんとのクリスマス」を、
文章を読んでみたい人は、「およげ、ぼくのコイ」をどうぞ。

「おじいちゃんとのクリスマス」
(リタ・テーンクヴィスト 大久保貞子・訳 マリット・テーンクヴィスト  冨山房・95年)


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12月5日

*Sweden スウェーデン

「ロッタちゃんとクリスマスツリー」
(アストリッド・リンドグレーン文 イロン・ヴィークランド絵 山室静・訳 偕成社・2000年)

スウェーデンの作家リンドグレーンとヴィークランドのコンビによるクリスマスの本は、
「やかまし村の春・夏・秋・冬」「やかまし村のクリスマス」【2006年 クリスマスの本 アドベントエッセイ】12月13日分参照)
「クリスマスをまつリサベット」「雪の森のリサベット」【2006年 クリスマスの本 アドベントエッセイ】12月21日分参照)など、
たくさん出版されています。
この「ロッタちゃんと〜」も子どもたちの大好きな絵本です。

ロッタちゃんが、大好きなぬいぐるみの豚のバムセを抱えて、
ごみ捨てとベルイおばさんにパンを持って行くお手伝いをしたところから、ドラマが始まります。
「バムセやーい!」

豚のバムセも無事見つかって、家に帰ると、
クリスマスツリーが手に入らなかったので、みんな落ち込んでいます。
「町じゅうに、クリスマスツリーは一本も売っていなかったんだよ。」

そこで、ロッタちゃんが、バムセを連れて、お店に行ってみると、やっぱりツリーはありません。

<・・・・・・・ロッタは、わっとなきだしました。
うちへかってから、ゆっくりなくつもりだったのにね。
なんてひどいことでしょう。
山のようにもみの木をつんだトラックが来たのに、小さいの一本も手に入らないなんて・・・・・・>


が! モミの木が山盛りの積荷の中から一本落ちました。
立派なモミの木を道に転がしておくわけに行かないので、
ロッタちゃんはクローナ銀貨をお店の人に渡して、
意気揚々とモミの木をそりに載せ引っ張って家に帰るのです。

<・・・・・・・「こんなりっぱなもみの木は、うちじゃはじめてね。
ほら、はりみたいにみごとなはっぱじゃない?」
と、マリアがかんしんすれば、ヨナスもいいました。
「しかも、とてもいいにおいがするぜ。」
「そうね。それロッタ、あなたがどうやって
このもみの木をひっぱってきたか、いつまでもわすれませんよ。」
と、ママはいいました。
「いや、このロッタのもみの木は、
ほかのもみの木のことをみんなわすれてしまったあとも、
いつまでもおぼえているにちがいないね。」
と、パパもいいました。・・・・・・>


家族で、モミの木に飾り付けをしている絵では、ロッタちゃんが得意げな顔です。
お父さんは、満足げだし、お母さんは、ほっとした顔つきです。
お兄ちゃんのヨナスは、ツリーに飾るオーナメント(*1)を持ち、
お姉ちゃんのマリアは、モミの木のつんつんした感触を楽しんでいます。
ツリーの足元には、リンゴやジンジャークッキーが飾られるのを待っています。
窓辺には、水栽培のヒヤシンスが咲き、
ピアノの上には、生誕を祝う人形の置物と、やわらかい光を放つろうそくが・・・・・・。


*1
ヨナスの持つひらひら飾りのついた紙筒みたいなオーナメントは一体何? と、疑問に思っていた頃があって、
スウェーデンに住む友人の友人に聞いたことがあるのです。
名前は、エール・キャラメル(クリスマス・キャラメル)というそうです。
昔はかなり大きなものを作り、行事のときにしか食べられないお菓子などを入れたとか。
今は、飾りだけの小さなものが、店頭で売られたり、
子どもたちが、トイレットペーパーやラップの芯で作ったりすることも多いようです。
確か、イギリスの某有名紅茶店のクリスマスカタログに、
この中に銀のスプーンとか、宝石を入れたものが掲載されていて、
すごーいお値段だったことを覚えています。

絵本に描かれたロッタちゃんのツリーにも、きょうだい3人分が飾られていますね。
きっと、お菓子が入っているのでしょう。





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12月3日

*USA アメリカ合衆国 バーモント州

「ヘレンのクリスマス」
(ナタリー・キンジー=ワーノック文 メアリー・アゼアリアン絵 千葉茂樹・訳 BL出版・2007年)

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<ヘレンのようなクリスマスをむかえるには、まだ、自動車も電話もない、
バーモント州の丘の上の農場で、7人きょうだいのすえっ子として、生まれなければなりません。 ・・・・・・>


ヘレンには、手先の器用なおにいさんがいて、お話のうまいお父さんや、お母さんが居て、
馬が居て牛が居てネコも住みついていて、他にもたくさんの動物が居て・・・・・・
そして、一年中働いて、すべての季節のことをよく知って・・・・・・

今年、翻訳されたこの「ヘレンのクリスマス」は、
「ブライディさんのシャベル」【春を待つ日のアドベントエッセイ】(3月20日)分参照)と同じ画家のアゼアリアンによるものです。
アゼアリアンの木版画は、一年のうち8か月も冬が続き、零下40度にもなるバーモント州の素朴な暮らしを表現するのにぴったりです。

「雪の写真家ベントレー」(*1)「雪原の勇者」(*2)と同様、
アゼリアンの描く冬の絵は美しく、
この「ヘレンのクリスマス」に描かれた夜空もまた格別です。
満天の星空が美しいだけでなく、きょうだいが身体を寄せ合って、
白い息を吐きながらそりに乗っている和やかな様子は、凍てつく夜空と対照的な温かさに満ちています。

派手な飾りも、華美なプレゼントもありません。
でも、満ち足りるということを知っているヘレンの安らかな寝顔。

この絵本の原題は「ヘレンのようなクリスマス」(A Christmas Like Helen's)といい、
本文の中に、繰り返し「へレンのようなクリスマスをむかえるには・・・・・・」と出てきます。
美しい絵を楽しむだけでなく、一度、声に出して読んでみてください。
そうすれば、呪文のように繰り返される言葉の魔力に引き込まれ、
あなたも「ヘレンのような」気分になると思います。

ところで、この絵本の中にメープルシロップを集めるシーンが出てきます。
バーバラ・クーニーの描く「にぐるまひいて」(*3)の中にも
メープルシロップを集めて、煮詰めるシーンがありますね。
甘いもの好きな私としては、メープルシロップを「なめる」たびに、この絵を思い出し、
「大きな森の小さな家」(*4)で、ローラのおじいちゃんが、
メープルシュガー(かえで砂糖)を苦労して作る話を思い出すのです。

*1 雪の写真家ベントレー
(J・B・マーティン文 千葉茂樹・訳 BL出版・2000年)
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*2 雪原の勇者―ノルウェーの兵士ビルケバイネルの物語
(リーザ・ルンガ‐ラーセン文 千葉茂樹・訳 BL出版・2004年)
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*3 にぐるまひいて
(ドナルド・ホール文 もきかずこ・訳 バーバラ・クーニー絵 ほるぷ出版・80年)

*4 大きな森の小さな家
(ローラ・インガルス・ワイルダー文 恩地美保子・訳 ガース・ウィリアムズ絵 福音館書店・72年)
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12月1日

*Austria オーストリア

「アルプスの村のクリスマス」
(舟田詠子 文・写真 リブロポート・89年)


オーストリアとイタリアの国境にほど近いところ、
アルプスの谷間に小さな村があります。
村で暮らすクリスチアンは、10歳の男の子。
クリスチアンはどんなクリスマスシーズンを過ごしているのでしょうか?
この絵本は、写真で綴る「写真絵本」です。

11月最後の日曜、アドベントカレンダーにお母さんがあめをつるし、
その日から4週間いい子だったら、毎日ひとつずつ、このあめを食べてもよかったり・・・・・・。
お父さんと、さくらんぼの枝を切りに行ったり、モミの木を切りに行ったり・・・・・・。
聖ニコラウスが鬼を連れて、村の子どもがいい子かどうか調べに来たり・・・・・・。
正装し、花束の煙でもって家中ーー牛小屋や豚小屋まで清めて回ったり・・・・・・。
プレゼントが気になったり・・・・・・歌ったり・・・・・・。
そして、3人の王様に扮した子どもたちが、
クリスチアンの家の入り口に「この家に、かみさまの祝福を」というしるしを書きに来てくれたり・・・・・・。

アルプスですから、寒いのは間違いありません。
が、家族がそろって、集うシーンのどれもが温かそうなこと。
ツリーには、わらで作られた素朴なオーナメントの星が飾られ、
テーブルには、赤いクロスステッチがほどこされた、さっぱり美しい白地のクロス。
クリスチアンがプレゼントに夢中になっているのを、見つめる兄たちの優しいまなざし。

ここには、大騒ぎのクリスマスがあるわけではありません。
冬至の時期、日の一番短い時期、さらに厳しい寒さに向かう時期・・・・・・、
家族が心を寄せ合って、ひとときを過ごす。
アルプスの家族のクリスマスは、羨ましいほど、温かいのです。

別の絵本では、「山のクリスマス」【2006年 クリスマスの本 アドベントエッセイ】12月11日分参照)でも、
アルプスのクリスマスが、楽しめます。

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